おれが便器に顔を突っ込んでゲロを吐いているときに
インターフォンの音がした
唾を吐いて立ち上がるとめまいがした
インターフォンがまた鳴った
さっきまで飲んでいた酒が
おれの身体の中で暴れまくっている
部屋ではマイルス・デイヴィスが流れている
ほとんど自分のゲロで聞こえなかった
ドアを開けると大きなガリ男と小さなデブ男が立っていた
失せろと言い、ドアを閉めようとした
デブの方がドアと玄関の間に足を突っ込んでいて閉められなかった
はじめまして、とガリが言った
おれはシーバス、ガリはそう続けた
おれがリーガル、デブが言った
よろしくな
おれはドアを思い切り閉めようとした
デブが叫んだ
痛い痛い痛い痛い痛い痛い
だいたい、いくつなんだお前らは
ガリが言った
12歳だよ
おれはそんなガキには用はない
ドアをまた思い切り閉めようとした
デブがまた叫んだ
痛い痛い痛い痛い痛い痛い
おれたちはあんたに幸せを届けに来たんだ
ガリがそう言った
そうかじゃあさっさと回れ右して歩き出せ
デブが言うとおりにした
ほら、お前もあのラードを固めたようなガキと一緒に行くんだよ
ガリは言った
おれたちはあんたに幸せを届けに来たんだ
おれの幸せはお前らを追い返して便所でゲロを吐くことだ
わかったらさっさと失せろ
ガリはデブのあとをついて行った
便器に顔を突っ込んでおれは思った
人生なんてひとりでジェンガをするようなものじゃないか
やがては崩れるものを
みせかけのつくろいでかりそめの時間を稼ぐ
時間を稼ぐために金を稼ぐ
金を稼ぐために時間を売る
なあ、おれたちはなにがしたいんだ?
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