アナと雪の女王の『Let It Go』に励まされた人は多いのではないでしょうか。飾らずに、自然体でいいんだよ、と肩の力を抜いてくれる、そんな曲だと思います。
ありのままでいい、自分は自分の思うように生きればいい、それはとても素晴らしいことだと、僕も思います。
本 当 に で き れ ば
の話ですが。
ありのままでいいといえば聞こえはいいですが、社会生活において、みんながありのままで行動したら、それは無政府状態です。
要は、人と人とが繋がっている以上、大部分の自由は束縛されるのです。――それを「秩序」と呼びます。
その秩序を無視して、好き勝手に、人々が行動したら――つまり無政府状態になったら――、ホッブズ著『リヴァイアサン』でも書いてあるように、闘争状態(万人の万人による闘争)になるでしょう。人は他人を顧みず、自分の利益だけを追求し、盗みや殺しが当たり前の世界になるでしょう。
だからこそ、人間には秩序が必要なのであって、お互いの自由を代償に、契約をするのです。社会生活とはすなわち契約の世界です。
多くの人は社会の中で生きています。だからこの曲のように、ありのままで生きられたらどんなにいいだろう、映画を観て、曲を聴いて、そう思うかもしれません。
しかし、まず第一に、社会から抜け出して生きる、言い換えれば完全な自由を獲得するというのは、多くの場合、害悪でしかありません。どうしてもやりたいことがあれば話は別ですが、獲得した自由が、退屈に変わってしまうことでしょう。社会生活が苦痛だからといってそこから抜け出したとしても、今度は退屈に悩まされることでしょう。
第二に、上記のように、社会のしがらみが苦痛で、自由を得れば退屈。それが人生なのだから、「ありのままで」という言葉は、社会で闘う人の意志を殺ぐプロパガンダだと、僕は思うのです。つまり、自由というきらびやかな言葉を目の前にちらつかせて、「自分は自分らしく生きる」と考えさせ、社会からエクソダスさせようという、これは、社会人の社会人によるひとつの闘争と言えるでしょう。
さあ、もう美辞麗句に惑わされるのはやめましょう。ストレスは人生のスパイスです。悩みこそが人生です。人生を楽しむとは、苦痛のない人生ではなく、苦痛をいかに楽しめるかだと思います。逆境に立たされたときに、猛然と突っ走れる人だけが、人生を楽しめるのだと思います。
なんのために人生に意味なんか求める?人生は意味じゃない。願望だ。――チャップリン
人生とはなんぞや……人生とは人が生きんとする意思そのもので、世界はその表象だと思います。つまり自分自身が映写機で、世界がスクリーンで、そこに映されるものが人生なんだと思います。
ありのままでいいんだよ、というメッセージは、悪意があるかそうでなければ無責任な言葉でしかありません。
「夢があっていいじゃないか」なんて思う人もいるかもしれませんが、夢を見てる暇に生きてください。夢と希望は別のものです。そして、この曲には希望はありません。夢とは、社会人をスポイルする罠です。
辛すぎる現実を、それでも生きる。
ありのままとは、本来そういうものだと僕は思います。
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