職場で、なにかにつけ後輩の女の子に「ビッキーさんっていつもテンションが一定ですよね」と言われるので、果たしてほかの人もそう思ってるのかと、リーダーにも訊いてみました。三十代半ばのお姉さんです。
「あー、たしかに浮き沈みはあんまないよね」
僕「そうですか……まあでも、いつも低めに設定してるんで」
「いまは?」
僕「結構マックスですよ」
「じゃあもう少しテンション上げてみようか☆彡」
ビッキー・ホリディです。
おひとり様という言葉ができたとはいえ、やっぱり一人じゃあなあという感じで躊躇してしまうものの一つに「焼肉」があると思うんです。
かくいう僕も、なんとなく「焼肉はみんなで食べたいよなあ」なんて思っていました。
昨日仕事終わりで、「夕飯なににしようかな」と考えながら小一時間電車に揺られ、結局なにも決まらないまま地元の駅に着きました。よくあることです。最近は自炊のブームが過ぎて、適当にコンビニでおにぎりを買って済ませることもままあります。なにを食べるのか、考えるのも苦痛で、いっそ一生お腹が空かない身体になればいいのにと本気で思っています。
ラーメン、カレー、牛丼、ハンバーガーといろいろありますが、その日はどれもピンとこなくて、今日もおにぎりでいいかなと思っていた矢先、ふと、「焼肉」という二文字が頭に浮かびました。
すると不思議なもんで、途端に焼肉が食べたくなって、もう胃は肉を受け入れる態勢に入り、口の中はじんわりと唾液がにじみ出て「班長!いつでもどうぞ!」と。(班長?)
これはもう焼肉しかない。誰か誘うか?いやでもそれは面倒だなあ……でももう身体は焼肉モードだし、そういえば去年の末ごろから焼肉が食べたかったし、でも一人か……
焼肉屋の前で班長は考えていました。(班長?)(二回目)
看板に書いてあるお品書きを見ながら、肉を食べながら軽く飲んで最後は冷麺でシメる感じかと、勝利の方程式を組み立てているとますます身体が焼肉モードに。ウム、これはもう行くしかない。3連休の中日で混んでるだろうけど、もう後には引けない……
店に入るといらっしゃいませーと迎え入れてくれたのですが、店員さんの視線は僕の後ろ。
一瞬の間があり、そこで僕は気づきました。「あ、一人です」
それで店員さんは納得したのか、カウンターに通されました。
やっぱり店内は混んでいました。賑やかでした。しかしそれは僕にはどうでもいいことでした。とにもかくにもまずはビール。それととりあえずすぐに出てきそうな馬刺しをつつきながら肉を決めようと。
ビールを飲みながらふと隣を見ると、女性が一人でホルモンを網に転がしていました。「そろそろ食べごろなんじゃないの」と思いながら見ていたのですが、お姉さんは食べる様子を見せません。スマホをいじり、トングでひたすらホルモンを転がしていました。新しいノイローゼかと思いました。
そっか、このお姉さんもおひとり様か。きっと女性の口からはなかなか「ホルモンが食べたい!」とは言えないんだろう、よくわからないけど女性特有の恥じらいのようなものがあるのだろう、だからこうして一人でホルモンを網に転がして……まだ転がしてるの?食えよ。
お姉さんは僕がタン塩を食べているときにもまだ、ホルモンを転がしていました。テーブルの様子を見ると終盤のようです。ソフトドリンクのグラスはとうにカラで、氷が半分くらい溶けていました。――ジュース!?すげえな、豪気なお姉さんだな。シラフでひたすらホルモンを転がしているとは……やっぱりノイローゼなのだろうか……
しかしそれ以上深追いはしませんでした。(いや、充分すぎるだろ)
おひとり様の不文律に「相互不干渉」の精神があります。つまり「関わらないから、関わらないでくれ」ということです。世の中みんなそうなら、きっといまごろ戦争なんてなくなっているでしょう。
僕は僕で肉を焼き、ビールを飲みとそれなりに楽しんでいました。そうなんです。結構楽しいんです。気恥ずかしさとか後ろめたさとか、そんなのは席に座るころにはどこかへ行っていました。そんなことよりも肉を喰らいビールで脂を流す。この気持ちよさったらありません。
5杯くらい飲んだところで気持ちよくなってきて、もう少し食べたら冷麺だなといったところでふと隣のお姉さんを見ると、その横に男がいました。お姉さんはおひとり様ではなかったんです。お姉さん……なんかいろいろゴメン……ノイローゼとか言ってゴメン……
もう3杯ほど飲んだところで僕もそろそろ切り上げようと、冷麺を頼もうと思ったのですが、食いすぎて冷麺なんて入りそうもありません。でもこのままじゃ口の中が焼肉のままだ……「班長!なにかサッパリしたものをお願いします!もう納期近いんですから!」と身体が訴えています。(班長?)(三回目)(で、納期ってなに?)
デザートを見ると、アイスクリーム。……口の中がニチャニチャするじゃないか。これはないな。次にジャーベット。これはもともとそんなに好きじゃないから却下。で、杏仁豆腐。
KO・RE・DA!!
杏仁豆腐でどうにか口をサッパリさせて、とてもいい気持ちで家に帰りました。軽く飲むつもりだったのですが、なかなかガッツリ飲んでしまいました。
そういえば、2日前に友人と朝まで飲んでいたのですが、そんときはいくら飲んでもまったく酔わなかったのですが、数えてないのでわかりませんが、結構飲んでたと思います。でも朝になってもシラフのままでした。(ちなみにそのまま出勤しました)それがひとりで飲んでたらまあまあ酔っ払ってるっていう。なんなんでしょう。
昔はよく前後不覚になってたってもんですが、それがいまじゃ酔うことさえもない。強くなってんのかどうなのか。でも強すぎるのも考えものです。そこそこ、たしなむ程度に飲んでそれでちょっと気持ちよくなれれば最高なんですけど。
帰ってからは職場の人に頼まれたサンプリングの作業をしました。……職場の人は僕をなんだと思っているのでしょうか。サンプリングなんてやったことねえのに。調べ調べやりました。でもこれが結構面白くて。なんかいろいろ作りたくなったのですが、気がついたら明け方だったので寝ました。
で、今日、やっぱり飲みすぎてたみたいで疲れが残っていてなんかずっと寝てました。最近、肝臓の衰えが著しく、薬のせいかと思っていたのですが、友人に話したら友人もそうらしく、「やっぱりもう若くないのかな」とアラサー二人でちょっと切なくなりました。